『天然酵母パン あおぞら』に込めた想い

『天然酵母パン あおぞら』に込めた想い

 

2016年7月18日、地元で開催されたマルシェに出店してオープン

 

その日は、雲ひとつない青空で、30度を超える暑い夏の日でした。

オープンした当時の彼女のノートを見ると、販売したパンの種類が書いてあります。

●食パン
●ごまドーム
●ウィナーパン
●コーンパン
●あんぱん
●レーズン&くるみ
●アマニ&クランベリー
●ベーグル
●スイートロール
●ごまキューブ、ごまパン

初めて出店し誰もパンの味を知らないはずなのに、販売開始時間の前から店舗の前にはお客さんが並び、10種類、150個のパンは、あっという間に売り切れました。

彼女は徹夜でパンを焼き、疲れ切っているはずなのに、どんな想いでどうやって作っているのか、パンに使っている材料、味や食感などを笑顔で丁寧に説明していました。

彼女の夢への第一歩が実現した瞬間でした。

その後は、販売店舗を構えずに、イベントに出店したり、この地域特有の野菜などを販売していいる無人市場で、お年寄りに混じってパンを販売させて頂いていました。

オープンしてから半年の間で、たくさんのお客様にパンを食べて頂き、新聞やフリーペーパーにも取りあげてもらいました。

【マルシェに出店】

 

【2016.8.23 中日新聞の記事より】

 

美味しいパンのヒミツ

 

『天然酵母パン あおぞら』の全てのパンに、自家製の天然酵母を使っています。

パンは酵母が発酵する時に排出する炭酸ガスを利用して、生地が膨らみます。

酵母の力を利用して作る食品は、酒、味噌、醤油などたくさんありますが、パンに使われる酵母の代表は、イースト菌です。

通常のパンには、工業的に培養したイースト菌のみ使うことで、パンの発酵が安定して大量にパンを作ることができます。

一方、天然酵母は、と言いますと。

ぶどうやお米に付いている野生の酵母を利用して、一定の温度管理のもと雑菌が入らないように注意しながら一週間ほどかけてパンを膨らませる元気の良い酵母を育てていきます。

温度を一定に保つのも大切ですが、天然酵母はブクブクと泡を立て少しずつ力をつけながら発酵していきています。

ですので、毎日空気の入れ替えが必要ですし、エサとなる小麦粉や水を一定量与え続けないといけません。

また、イースト菌に比べると発酵力が弱くて培養される酵母菌の数も一定ではないためパン作りに使うと、パンが膨らまなかったり失敗することも多いのですが、何年も注ぎ足しながら酵母を使っていると、だんだんと愛着がわき、可愛くなってきます。

なぜ『天然酵母パン あおぞら』では、自家製の天然酵母を使うのか?

美味しいパンが作れるからです。

天然酵母は、イースト菌のような単一な酵母ではなくて、ぶどうやお米の表面に付着している様々な種類の酵母が混在しており、それぞれの酵母が出すアルコールと果物のフレーバーが、パンに独特の香りと味を付けていくのです。

そして、パン生地をゆっくりと低温発酵させることで、小麦の旨味と香りを引き出し、焼き上がった後も、天然酵母パンは、ゆっくりと熟成していくので、日ごとに味も変化していきます。

パンを手に取るとズッシリと重量感があり、もちもち食感で、噛むほどに味わいが出てくる美味しい美味しい天然酵母パンのヒミツです。

『天然酵母パン あおぞら』では、主にお米酵母を使っています。

そのお米も、農薬を使わずに熊野の山奥の美味しい水で育てた、こだわりの自家栽培のお米です。

 

『あおぞら』の名前の由来

 

パン屋さんを7月にオープンすると決めてから、彼女は、パン屋さんの名前を何にしようかずっと考えていました。

いくつか名前を考えたのですが、ピンとくる名前がなかなか思いつかずに迷っていたのですが、ある時

「『天然酵母パン あおぞら』 に決めたよ」と、教えてくれました。

理由を聞くと。

パン屋さんをオープンする前、彼女は自宅から出れず人とも会えないつらい日々がしばらく続き、生きる事を諦めかけた時がありました。

そんな時、外に出て、空を見上げると綺麗な『あおぞら』が広がっていました。

今までに何度も見ている空のはずなのに、彼女の目にはまるで違って映りました。

空ってこんなに綺麗だったんだ。

生きているとこんな綺麗な空が見えるんだ。

明日も生きて、あおぞらを見よう。

彼女にとって、あおぞらが、明日への生きる希望となりました。

そして、パン屋さんの名前を『あおぞら』に決めたのでした。

『天然酵母パン あおぞら』は、彼女の生きる希望となり、生きていた証となりました。

 

僕がパンを焼き続ける理由

 

ある日、彼女が言いました。

「私がいなくなったら、まーくんがパンを焼いてよ」

その時は、返事をする事が出来ませんでした。

 

でも、彼女が眠る病院のベッドの上で、息子と3人で約束しました。

『天然酵母パン あおぞら』は、無くさないって。

 

彼女が作っていた魔法をかけたような美味しいパンを再現するのは無理かもしれませんが、僕が焼くパンを食べて彼女の事を思い出してくれる人がいる限り、パンを焼き続けます。

 

彼女が生きた証を守り、彼女の想いを伝え続けます。

 

天然酵母パン あおぞら