あっという間の1年
彼女がいなくなってもうすぐ1年。
ただ、ただ『天然酵母パン あおぞら』を続けるのに必死の1年でした。
1年前までは、パンなんて一度も焼いた事がありませんでした。
それまでは、パンをオーブンから出したり、袋詰めしたりする作業、そしてメインの担当は、使い終わったボールやオーブンの天板を洗う事でした。
ですので、まずは、パンを焼けるようにならないといけないと思い、彼女が残してくれたレシピをもとに、2日後にはパンを焼いていました。
最初は、パンを捏ねる機械ニーダーの使い方も分からなかったですし、どんな状態まで生地を捏ねたら良いのかも分からず、発酵不足でカチカチの硬いパンしか焼けませんでした。
その後、3ヶ月間パンを作り続け、彼女の友達にもパンを試食してもらい、「そう、そう、この味‼︎」と言ってもらえるようになり、やっと販売できるぐらいのパンを焼けるようになりました。
今は、熊野市紀和町にある小さくて素敵なカフェ『Iru-cafe』さんで、毎週土曜日にパンを販売させてもらっています。
でも、一度に作れるパンは少なく、食パンとベーグルだけの販売です。
彼女は、毎回10種類以上のパンを焼いていたのですが、天然酵母を使って1人であのパンの種類と数を焼いていたなんて本当にびっくりします。
また、パンの種類によって酵母を使い分けて、こだわりの天日干しの塩や町内で採れた蜂蜜を使い、発酵時間は6時間以上かけ、手間と時間を惜しまずに丁寧にパンを焼いていました。
本当は、ベーグル屋さんをやりたいんだって言っていましたが、お年寄りは、モチモチと噛み応えのあるベーグルを食べるのが大変だろうからと、ふわふわ生地の色々なパンを焼いていました。
心に響いた1冊の本
最近、心に響いた1冊の本に出会いました。
読まれた方もいるかもしれませんが、三浦崇典著『殺し屋のマーケティング』という本です。
広告、営業、PRが出来ない、世界一売ることが難しい「殺し」を売ることができれば、世界一のマーケティング・マネージャーになる事ができるのでは、と考えた書店店主が書いたマーケティングの小説です。
その本の中に、吉祥寺にある小さな和菓子屋さん「小ざさ」が出てきました。
「小ざさ」は、実在するお店で、40年以上前から早朝の行列が途切れない年商3億円の小さな和菓子屋さんです。
「小ざさ」は、1日限定150本の羊羹と最中しか商品がないのですが、1平方メートル当たりの売り上げは、ティファニーやアップルのはるか上、20倍もあるそうです。
しかも、「小ざさ」は、営業や広告をほとんどせずに1坪の店舗でその売り上げがある。
なぜ、そんなにも売れているのかというと、店主が手間と時間を惜しまずに試行錯誤をし、想いを込めて作った「コンテンツ」である羊羹が圧倒的に美味しいからです。
そして、圧倒的な「コンテンツ」があれば、それが「ブランド」となって、営業、広告、PRが必要ない最強のマーケティングとなっているのでした。
「小ざさ」の話を読んだ時、彼女が始めた『天然酵母パン あおぞら』と重なりました。
彼女がしていたことは、「小ざさ」と同じで、「コンテンツ」であるパンを美味しく焼くことだけを考えて手間と時間をかけて想いを込めて必死にパンを焼いていました。
そして、営業や広告を出していないにもかかわらず、そのパンを買い求めて行列ができていました。
彼女は、誰からも教わることなく「コンテンツ重視」の最強のマーケティングを実践していました。
本当にすごい。
美味しいパンを追求し焼き続けること
この本を読み、迷いがなくなりました。
来年度、『天然酵母パン あおぞら』として、やる事は1つだけです。
美味しいパンを追求し焼き続けることだけです。
もし、「コンテンツ重視」のマーケティングを実証し、無人市場で販売しているお年寄りの生産者にも波及すれば、最強の無人市場『なかよしステーション』となると思います。
そして、生産者もお客様もみんな笑顔になれるコミュニティにしていきたいと考えています。
無人市場は、たくさんあり、お客様は、新鮮で安い野菜や果物を求めて買いに来るので、生産者は、1袋100円の値段をつけないと売れません。
でも、もし、そこに売られている野菜や果物が誰もまねできないほどの美味しい「コンテンツ」(商品)であれば、300円でも買ってくれるはずです。
また、三浦崇典氏が展開している書店のように、「コンテンツ」を売るだけでなく体験型の無人市場にすれば、たくさんのお客様が楽しんでくれると思います。
無人市場にちょっとしたマーケティング手法を取り入れるだけで他の無人市場や販売店と差別化できるはずです。
そんな事を考えていると、今年も残り1時間となってしまいました。
1年間、静かに見守り支えて下さった皆さま、本当にありがとうございました。
そして、来年度もよろしくお願い致します。
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